北京オリンピックが近づいてきて、スポーツニュースでは各競技の代表選考会や予選などを取り上げることも多い。日本メダルの期待を込めて。競泳も注目の競技だろう。北島康介いるし。ところが、ニュースやネットのブログなどで、選手が着る競泳水着の問題についておかしなコメントが目につき、正直がっかり。

スポーツはなんでもありの勝負じゃない。厳格なルールの下、工夫して努力して苦労して切磋琢磨するもの。あくまでも枠内で、なのだ。そのルールにはもちろんマテリアルも含まれる。マテリアルの進化もスポーツの一部であり、またスポーツをより輝かしいものにしてきた。

話題になっているSpeedo社の「LZR RACER(レーザー・レーサー)」は、完全にルールに則った公式なものである(現時点での国際水泳連盟の判断)。その開発には「スピードインターナショナルの研究開発チームであるアクアラボが、400名以上の世界のトップスイマーでテストを重ね、米航空宇宙局(NASA)をはじめとする国際的な研究開発期間の専門家や技術協力を経て、3年以上の歳月をかけて開発したスイムスーツ」とリリースではうたっている。で、その競泳水着を着た選手が世界新記録を連発。長年の努力が実った素晴らしい結果といえる。

ところが、日本人にとって問題なのは、日本水泳連盟とメーカーとの契約により、北京オリンピックで日本選手はこのタイムが出る(らしい)競泳水着を着ることができない。これを「不公平」というおかしな人たちがいる。ぜんぜん不公平ではない。これを不公平と言ったら、スポーツは成り立たなくなる。

上のリリースでもあったように、400名以上の選手の努力と3年もの開発期間を経て完成した高性能競泳水着。400名の選手の中には、自分のやりたい練習プログラムを放棄してまでも、マテリアルの重要性を鑑みて協力してきた人もいるはず。マテリアル開発の現場は試行錯誤の連続で、協力する選手にとっては大変な作業だったと思う。それでも地道な努力を重ねてこの競泳水着を完成させたのだ。多くの人たちの努力の結晶である。協力した選手の中には、自分が開発した水着なのだから、独占して使用したい、するべきだ、と考える人もいるはずである。

テレビで「同じ競泳水着で北京オリンピックを」などと、見当違いなことを言っている人たちは、表面的にはわからないこういう隠れた努力をまったく考慮していないのだろう。

極端な話し、同じ競泳水着を着て競争しようという意見は、水泳のテクニックスキルや体力の鍛錬をしないでその人の素質だけで勝負しましょう、というのと同じ、とまで私は考える。スポーツにみんな熱中するのは、人が努力するという非常に美しい姿を見られるから。努力の結果を目の当たりにできるから、みんな憧れ、そして賞賛する。それなのに、競泳水着の開発に携わってきた選手の努力を否定するような「競泳水着は同一のものを」発言は、スポーツを否定している。否定しているつもりはないのだろうが、スポーツとはなんぞや、つーことをわかってない人が多すぎると思う。

北島康介がSpeedo社の水着を着られないことについてインタビューを受けていて、非常に優等生的なコメントしていた。Speedo社の競泳水着が本当にタイム短縮に関係しているかわからない、ただ、選手はその水着を着ることにより、速く泳げるような気持ちになるはず、だいたいこんなことを話していた。彼は直接的には2つのポイントを述べている。

1つは、Speedo社の水着を着てタイムが0.5秒短縮した云々言うが、厳密にはまったく同じ条件でのタイム比較はありえない。同じ人が泳いだとしても、体の疲労度、意識、環境など、同一条件はありえないのだ。その水着の性能がタイム短縮に関係しているか、その因果関係は永久に実地に証明されることはない。

2つめは、選手にとって気持ち、モチベーション、メンタルな部分が記録につながるというのは、北島自身も実感しているはず。だから上のようなコメントになったと思う。自分が信頼しているマテリアルを身につけるとき、自分が最大限の力を発揮できる。性能よりもその精神面が大切だと彼は言いたかったと思う。

ただ、この2点に関しても、建前であり、北島自身もSpeedo社の優位性は十分に認識しているだろう。しかし彼は真面目なスポーツマンなので、スポーツとはそういうマテリアル開発の部分も競争であることはわかっている。自分がSpeedo社の水着を着られないのは不利だが、それもルールであるから、自分は自分なりの精一杯の努力を続けて、そして勝負に臨む、そういう気持ちのいいスポーツマンシップを感じた。

競泳水着は20年くらい前までは、人間の皮膚より抵抗値が小さい生地がなくて、いかに体を覆う生地の面積を小さくするか、というコンセプトで作られてきた。その後、人間の皮膚よりも抵抗値が小さく、筋肉の動きを阻害することの少ない生地が開発され、現在のようなオーバーオールタイプが増えてきた。もっともっと筋肉が自由に動ける生地素材ができれば、最終的にはスピードスケートのウェアのようなデザインになるのではないか。

今度の北京オリンピックでも、選手の泳ぎはもちろん、選手がどんなデザインの水着を着ているか、どのメーカーの水着を着ているか、速い人が着ている水着に注目してみるのも楽しいだろう。そして、なんでそんな形になっているのか、どういう理論からこのデザインが生まれたのか、などと考えてみたり調べてみたりすると、もっともっと楽しくなるだろう。スポーツを楽しむということは、そういうことなのだと思う。

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